東北関東大震災被災者の皆様へ

心よりお見舞い申し上げます。    

 私たちは今回の災害から多くの事を学ぶべきだと感じています。今の自分にできる事は二つあると思います。一つは積極的な節電や具体的な支援活動。そして、もう一つは自分自身を見つめなおすことだと思います。節電や具体的な支援活動には限界が出来てしまいますが、自分自身を見つめなおすことには限界はありません。今回のような大災害に直面した時に自分自身がどうあるべきであるかを問い直すことは非常に重要なことだと思います。多くの方の「死」を目の当たりにすることは非常に辛いことだと感じますが、「死」と「生」はワンセットであり、「死」を深く見つめることは、自分自身がどのように生きるべきなのか、人間とはどういう存在なのかを洞察することに繋がると感じます。

 また、「恐怖」や「不安」が湧きあがってくることは、仕方ないことだと思いますが、「恐怖」や「不安」に捕まる必要はありません。「恐怖」や「不安」に囚われない自分自身を見出し、冷静な自分を取り戻せるよう、自分自身の心を統御できる自分を作り上げて行く必要性を感じます。そのためには今の一瞬に自分が何を感じているかをしっかりと自覚し、反応的にならないように意識的に生きて行くことが重要だと思います。

 今回の大地震や津波を「人間は如何に生きるべきか」を個人個人が考える地球からの「問い」と捉え、日々、精進していきたいと思います。今こそ、人々が一丸となってこの困難を乗り切っていきたいと願うばかりです。

 

武颯塾 茂呂 隆

 

 

 

刊行にあたって(茂呂隆師範インタビュー)

本書は2007年から2010年にかけて『月刊秘伝』に掲載された連載「“生活圏”武道学」をもれなく収録した書籍です。

表紙
表紙

  本書は『月刊秘伝』の連載「“生活圏”武道学」を再編集したものなんですが、掲載当時、かなり反響をいただきました。画期的な連載だったと思うんですよね。

茂呂 そうかもしれませんね。

  割と“心”の問題をやりたくて始めた連載なんですけど、そこへ“身体”から入っていくっていう所が。

茂呂 武道ってそういうものなんですよ。“身体”を何とかする事によって“心”も何とかなってくる。一般に思われてるような「厳しい稽古をやるから“心”も鍛えられるんだ」っていう事でもなく。

  “身体”のあり様が“心”のあり様なんですね。ちょっと初めて聞いた構造でした。

茂呂 “身体”から無駄な力みが消えて安定したら、それだけで必ず“心”も安定してきますしね。

  個人的には、この連載の方向性を決めたのは、開始前の打ち合わせの時に出た「特急列車の暴行事件」の話だったような気がします。女性がトイレに連れ込まれて、暴行されて……。それに対して茂呂先生は「それをみて何もできなかった人はきっと悔しいだろう」って。

茂呂 ええ。

  本書もこの話から始めてますけど。その通りだなと思ったんです。理屈はいろいろ出てくるんですけど、もうちょっと単純な所だったんですよね。「悔しい」って。だからよくわかった。だから何が何でもなんとかしなきゃとなる。

茂呂 ただ、「正解」が何か、という事は議論したってしようがないんですよね。その場にいなければわからない事だし、そういう所を議論しても仕方ないんです。駅員さんを呼びに行ったっていいし、やり方はたくさんある。それより何より、「行動できるか」なんですよ。

  その「行動できるか」に集約されますね、本書のテーマは。そこが“身体”の問題であり、そのまま“心”の問題でもある。

茂呂 「行動する者」こそが侍の別称ですからね。そこまでの危機状況じゃなくても、行動できるかできないかの分岐点は、日常いくつも出てきますよね。

  そうですね。言うべき事を言うか言わないか。落ちてたゴミを拾うか拾わないか。大変そうな仕事に取り組むか逃げるか。やってやろうと思うかもういやだと思うか。そんなのが一日のうちにもいくつもあって、そこをちょっと怠惰な方に行ってしまうと、どんどん怠惰な方向に転がっていってしまったりする。

茂呂 そうなんです。そうやってどんどんネガティブな方向に行ってしまうと、下手すればうつになったり、自殺したくなったりしてしまう。でも、その一つひとつの分岐点を「行動する」方に転がるっていうのは、実はもの凄く簡単な事なんです。少なくとも身体的には。行動するのは身体ですからね。

  そこを、「こっちに転がってみたらどう?」って言いたいがための連載だったような気がします。本当にささいな事なんですよね。それだけに、そのささいなネガティブ選択……「面倒くさい」みたいな所ですね。それをどんどん重ねていってどんどん落ち込んでいってしまうのはすごくよくわかるんです。

茂呂 私もわかります。でも、本当に簡単な次元の分かれ目なんですよね。武術的に言えば、踏み込めば斬られないのに、躊躇したり中途半端に逃げようとしたりするから斬られる、っていうところ。踏み込めばいいんです。それ自体は簡単。わかっていてもそれができない、みたいな難しさはありますけど。

  「できない」がだんだん「やらない」になってくる。なんとなく、今の世の中全体が怠惰な方向に行っちゃってる気がしてたんです。挨拶しないし、礼も言わないし、謝らないし。そんな事すらやらなくなって、ひどいなこれはと。このままどんどんひどい方向へ行っちゃうんだろうなと。でも、そんな事なかった。捨てたもんじゃないなと思ったのが「伊達直人現象」。

茂呂 ああ、なるほど。

  「行動する」人があれだけいるとは。ちょっと感動しましたよ。

茂呂 もしかすると、仰るように怠惰な方にどんどん行ってたかもしれませんね。けど、行ききっちゃうと、必ず「揺り戻し」というか、起こるんですよ。これじゃ駄目だ、っていう行動が。

  そうなんですね。茂呂先生は前々からそう仰ってましたけど。おそらくやった人は「いい事したな」というよりも、もっと単純に清々しい気持ちになったんじゃないかと思うんです。行動する事によって。

茂呂 そうでしょうね。行動すれば、後悔する事はない。でもしたいと思っていた行動をしなかったら、必ず後悔します。

  ほんのちょっと、「こっち側に転がる」選択ができるような、「行動できる」方向に行けるような、そんなきっかけになればいいなと思うんです。本書が。心が折れそうな人がいたら、ぜひめくってみて欲しい。答が見つかると思いますよ。本書は「護心術」How to本ですから。

  (2011.2)